鈴鹿カルチャーステーションで国際フォーラム開催 ちっぽけな個人は無力か? 一市民から「持続可能な社会を造る」なんてことは出来るのだろうか? 昨今、国民がどれだけ反対しても、政府は安保法案を成立させ、国内の原発も再稼働し、TPPも合意へ向かう。国や社会の前にちっぽけな個人は無力だ、理想的な社会を描いても実現は難しい、と考える人は多いことだろう。 しかし、それは思い込みかもしれない。ちっぽけな個人でも集まれば実現可能かも。社会を変えられるかもしれない。そんな希望を見せてくれる「フォーラム2015」だった。 以下、記者の視点からその様子を簡単にまとめてみた。(記事と写真=いわた) 明日の社会を自分達の手でどう作るのか! 秋晴れとなった10月18日日曜午後。鈴鹿カルチャーステーションで、『やさしい社会国際フォーラム2015 “自分達で創る自分達の持続可能な社会”』が3人の講師を招いて開催された。福岡、静岡、神奈川など遠方からの参加者や地元の議員さんなども加わり、3時間を越える熱いフォーラムとなった。
司会進行は佐藤慎二さん。今年埼玉県からアズワンコミュニティに移住してきた。
今回の企画を進めてきた一人だ。 「環境先進国ドイツでは自分達で街づくりすることが活発に行われている。日本でも3.11以降、エネルギーや食糧も地域で生み出す動きが始まっている。昨今政治経済の動きから私たちは大きな転機を迎えている。…」とフォーラムの主旨と講師陣を紹介した。
バイオミミックの考え方
内藤正明氏(京都大学名誉教授)
国立環境研究所等歴任後、現在滋賀県琵琶湖環境科学研究センター長、
NPO法人循環共生社会システム研究所代表。京都・滋賀・兵庫で環境政策に関わる。
鈴鹿カルチャーステーション名誉館長。 内藤氏からは最近耳にする「バイオミミック」について話をはじめた。 バイオミミックとは生物(バイオ)を模倣して(ミミック)、製品に役立てようという言葉だ。 新幹線の先頭デザインに空気抵抗の少ない“かわせみ”の口ばしを似せたとか、パンタグラフの騒音をなくすために無音で飛ぶフクロウの羽根を真似た、という話題がある。 内藤氏は、バイオミミックの考えを更に進めて提唱する。 生物は廃棄物・廃熱を出さずに自然エネルギーのみで動いている。他者と共存しながら。 自然界はこのことをずっと以前からやってきている。そのことを真似て、そのような技術やシステムを本気で実現しよう! それが出来ないのなら、今の廃棄物や廃熱を出すような未熟な技術は捨て去る覚悟が必要だ、と主張する。 この主張は、滋賀県の嘉田(前)知事にも届き、2030年までに温室効果ガス排出量マイナス50%という「滋賀持続可能社会シナリオ」が県議会で採択されたという。滋賀がそれをするなら、京都もとなってきたそうだ。 そして今、内藤氏が推進しているのが、「FEC自給圏」づくり。食糧・エネルギー・ケアが自給できる地域をつくることだ。近年、自然災害が多発している。その備えとして、災害時に対応できる地域づくりを進めたいという。アズワンコミュニティにその期待を寄せている。 アーバン・ガーデニングの活動
エクハルト・ハーン氏(ドルトムント大学教授)
ベルリンの復興計画、EU環境部会アドバイザーなど歴任後、 現在ドルトムント大学院大学教授。
従来型の都市計画や建築を見直し、人間行動学をベースに、話し合いから始
まる環境調和型コミュニティづくりを提案。日本文化の中に自然と人間の共生への可能性を見ている。 続いては、ハーン氏の登場。 自然がどのように持続可能なシステムを作ってきたのか。また産業革命以前と以後で社会はどのように変化し循環システムが崩壊したのか。現在の大都市の中で循環システムを再構築するにはどうすべきか、などを解説し、現在ドイツで取り組まれている持続可能な社会づくりの実例を紹介した。 ベルリンでは100か所以上の場所でアーバン・ガーデニングが盛んだという。 都市の中で、野菜や果物を育てる「都市農園」があちこちにあるそうだ。 空き地だったところを占拠してガーデニングを始めたのがキッカケのようだが、 市の所有地なら、それは市民のものだ、自分たちで工夫して使おうという認識が広がり、次々に空き地を農園化していったそうだ。 そのイメージは、日本人が個々に行っている菜園とは違い、市民が互いに共有し、ガーデニングや自然との共生を学び合い、意見を交わし交流し、それにとどまらず、カフェやレストランが出来たり、ワークショップを開いたり、個々の特技が活かしあえる場、即ち「エコステーション」が生まれているという。 公有地を活かしたこの活動は、都市の中に水や資源の循環も生み出しているそうだ。 現在ドイツは原発ゼロの再生可能エネルギーによる社会へ移行している。 それは、市民が政府に対して、反原発の声を上げ続けていた結果、福島の事故を機に政府を動かしたものだという。 「新しい変革は、トップダウンではなく、コミュニティの小さな活動から始まるのだ」と ハーン氏は強調した。
ハーン氏の通訳を務める荒田鉄二氏(鳥取環境大学准教授) アズワンコミュニティの活動
小野雅司氏(サイエンズ研究所研究員) 人と社会の本来の姿を明らかにする研究活動と同時に、コミュニティづくりに関する教育プログラム
に携わり、また、日本、韓国、ブラジルなど各地のコミュニティづくりの実践的サポートを進める。 講師3人目、小野氏が、持続可能な社会のモデルづくりとして、「アズワンコミュニティ」の紹介と「街のはたけ公園」での取り組みについて発表した。 「持続可能な社会をつくるには、持続可能な人間関係からだ」という。 意見の違いで喧嘩したり、話し合いが出来ないようでは、その組織は行き詰まったり、ひどい場合は崩壊してしまう。そんな視点から、親しさでつながるコミュニティづくりの概要を解説。 昨年のフォーラムではじめてアズワンコミュニティの実例が紹介されたが、それから1年半の現在、その中身の充実ぶりが伺えた。コミュニティ内でのお金を必要としない暮らしぶりや、人々がのびのびと仕事をし会社を経営している様子。また、このコミュニティ活動がその周辺地域にどのように浸透し繋がり合い、また、何をもたらしているのか、その様子は、「はたけ公園」での活動から知ることが出来た。 はたけ公園での企画に参加する母親が、「この空間では、子どもを自由に解放することが出来、私も気持ちが寛大になれる」と話しているそうだ。 「イマジンの世界は実現可能か?」と、昨年は疑念もあったが、今年の報告を聞くと着実にその実現へ向かう様子が伝わってくるようだった。 後半はセッションへ
4人の講師陣が正面に並ぶ。
セッション進行は岩川氏(KIESS研究所) 前日は、京都会場で、「KIESSセミナー2015“自然と共に生きる街づくり”」が開催され、本講師陣の講演があったそうだ。その流れを簡単に岩川氏が紹介する。 その後、会場からの質疑応答。
感想を求められて…。 トランジション・タウン・浜松の増田力也さん(写真左)、福岡の吉岡さんが答える。
最後に、お越し頂いた議員さんから一言。 鈴鹿市議会議員の市川哲夫氏(写真左)。 三重県議会議員の下野幸助氏(写真中)。 鈴鹿市議会議員の山中智博氏(写真右)。 アズワンコミュニティの活動に協力して頂いている方々だ。
周囲の協力と浸透 フォーラム2015を終えて。 ドイツでの市民の動きや内藤氏の提言、そしてアズワンの進行状況など、毎年聞いていると、夢物語だと思っていたことも、その実現が次第に浮かび上がってくるようだ。具体的な一歩が分からずとも、このような場で共有することが、大きな力になていくように思う。 そして、それは、私たちの進むべき方向を照らしているのではないか。 講師陣の生き生きとした姿に胸を躍らせた。(いわた)